DON’T STAY INTERVIEW#9 本物に拘り、アメカジ文化を広げていく – 甲斐祐也さん
甲斐祐也(かい ゆうや)さんは現在37歳。清武町加納にあるアメリカンカジュアル(アメカジ)系の洋服・雑貨を取り扱うアパレルショップ「Jack Rabbit」の代表を務め、「ユニオンスペシャル」なる希少なミシンを使う数少ない補正のプロでもあります。
福岡、沖縄でアパレル関係の仕事に従事し、26歳で宮崎に戻ってきた甲斐さん。なぜ洋服屋の道を選んだのか?甲斐さんを夢中にさせる”アメカジ”の魅力とは?甲斐さんのこれまでの経緯とこれからのビジョンについてのレポートです。
アパレルショップを営む父を見て育った幼少期
甲斐さんのお父さんは元々大阪で銀行員として働いていました。田舎が好きで、脱サラ。
お母さんが都城出身ということもあり、宮崎に越してきたそうです。
祖父が営んでいた畜産を手伝いながら、車にジーパンを積んで売りにいく外商をしていたとのこと。その後、甲斐さんが生まれた年に、清武町正手に店舗を構えたそう。
その後、店舗は清武町加納に移転。その店舗「ジーンズショップ BAN-B1」は今年で37年目。お父さんが営む店舗の隣に、甲斐さんのお店「Jack Rabbit」があります。
甲斐さんが生まれた頃から洋服屋を営んでいたお父さん。お父さんがいなかったら洋服屋をやっていない、と言います。
洋服の卸を勉強するため福岡へ
甲斐さんは、短大までを宮崎で過ごします。
元々は洋服に興味はなく、生まれも育ちも洋服屋なので、洋服はお金を出して買うものじゃないと思っていたそうです。
その後、スケボーカルチャーに魅了され、ファッションに興味が出てきて、父親の店にはないスケボー系の洋服を買うようになります。
お父さんと同じく、洋服の道に進もうと考えた甲斐さん。短大を卒業して、父親のお店と取引のあった問屋さんで働き、卸の勉強をするつもりで福岡へ。しかし、福岡では卸の仕事ではなく、直営店のアパレルのお店で働くことになります。その店舗はアウトレット商品を扱うお店で、正直「自分にはあっていないのでは?」と感じていたそう。
甲斐さんは、そのお店を1年も経たずに辞め、沖縄に行くことを決意します。
沖縄で出会った「アメカジ」と言う文化
21歳の頃に沖縄へ。
沖縄へ行った理由は、大学生のときに沖縄に行った際に、沖縄のカルチャーに衝撃を受けたからだそうです。
沖縄が持つ、アメリカっぽさ、外国っぽい空気が好きなんだとか。
当時、あてもなく沖縄に行った甲斐さん。働きたいと思っていたアパレルショップがあり、そこに応募しようと思ったところ、ちょうど人材募集が終わったタイミングだったらしく応募を断られたそう。しかし、諦めることなく、履歴書を持って直接店舗に行って、社長に直接「働かせてください」とお願いしてなんとか働かせてもらったそうです。
その店舗の一角に「アメカジ」コーナーがあり、そのコーナーの担当になりました。そこでアメカジと初めて出会った甲斐さん。
当時はその文化や背景を全く知らなかったけど、雑誌などを読み漁って勉強。それからはアメカジにどっぷりハマったそうです。
ちなみに、アメカジとはアメリカンカジュアルの略。
よく耳にする言葉ではありますが日本特有のジャンルだそうで、1970年以前の衣料、ビンテージと言われるアメリカで着用されていたスタンダードでカジュアルな洋服を再現して作られている洋服のこと。
当時使われていた織り機などを日本に持ってきてディテールや縫製の仕方を当時のまま再現しているそう。当時の織り機やミシンを使っているので、ムラができますが、それが味として活きるそうです。
宮崎で「Jack Rabbit」をオープン
沖縄で4年ほど働き、店長にまでなった甲斐さん。
本当は10年くらい修行したかったそうですが、働いていたお店の社長が変わって、店の方針や雰囲気が変わってしまったらしく、アメカジの扱いが徐々に減っていったこともあり、宮崎に戻ることを決断します。
そして、2006年、父の店舗のとなりに現在の店舗「Jack Rabbit」をオープン。今年で11年目を迎えました。
オープンしてすぐは、友人や身内しかお客さんがいなかった時期もあって、取扱ブランドも少なかったそうです。
しかし、オープンして1年ほど経った時、当時はまだ小さかった「ジェラード」というブランドの社長さんから、SNSを介してブランドを取り扱わないか、という連絡が来ました。そのブランドのことは雑誌に載っていて知っていたが、当時甲斐さん自身、インターネットを始めたばかりりだったので最初は詐欺なんじゃないか?と思ったそう。
ジェラードの社長さんからメッセージや電話が来るようになり、その後東京に行って実際に取扱が決定。そのブランドを扱い始めてから、お客さんが増えてきたそう。
「ジェラード」が立ち上がったのは、甲斐さんが宮崎でショップを始める少し前。今年で12年になるこのブランドは、今では多くの著名人も愛用するブランドに成長しました。
1950年代製のミシン「ユニオンスペシャル」が生み出す味
「Jack Rabbit」のカウンターに置いてある古いミシン。そのミシンの名前は「ユニオンスペシャル」といいます。
1950年代にアメリカで製造された裾上げ専用のミシンで、アメカジ文化を象徴するミシンです。1950年代アメリカ当時の製法で縫製できるこのミシンを、甲斐さんは店舗をオープンする前に、デニムが有名な岡山県で手に入れました。
現代のミシンはキレイに縫ってしまうのに比べ、このユニオンスペシャルは、縫うことでよじれが出てきて、これが味になるそう。綿100%の糸で縫うことで、洗えば洗うほど、裾上げした糸が縮んで裾に凹凸ができて、表面が削れグラデーション模様が出てくるそうです。
ユニオンスペシャルを使って補正をできる人は宮崎県内でもほとんどおらず、同業者でもある他の洋服屋さんが裾上げを頼みに来るほど腕前も確かだそう。
また、甲斐さんは革の財布や小物などの革製品を自分で作っています。沖縄の時にお世話になった師匠が革小物をオリジナルで作ってもらっていて、自分も作ってもらったことで、「自分でもやってみよう」と。
沖縄で革工芸屋さんに1年くらい通って革製品の作り方を覚えたそうです。それから、オリジナルの革財布や小物を手縫いで作るようになりました。甲斐さんが作る革製品は使えば使うほど味が出てきて、とても丈夫。丈夫過ぎて、リピートが来なくて困っているそうです。
アメカジやその文化を好きな人たちが集まる場所を作りたい
「Jack Rabbit」はオープンしてから11年を迎えようとしています。
最近はバイク屋さんとも仲良くなったので、バイクなど洋服以外のアメカジ文化も広げていきたいと語る甲斐さん。
今後は店舗を広げて、洋服はもちろん、バイク展示や本や雑誌など、共通したテイストのモノや、このテイストを好きな人達が集まる場所を作りたいと話してくれました。